中国における知的財産「指導案例」と「10大案件」(王暁陽)

 中国は日本と同じく成文法主義の国であるため、裁判例が判例法主義を取る国ほどの拘束力がない。しかし、法の安定性の見地から、同種類の事件や同じ法律上の問題点に対して、先行する他の裁判所の判断を参考、活用することは重要な意味を持つといえよう。日本と中国においても、先行する裁判例は、後の判決の形成に対して、事実上に影響を及ぼすことを否定することができない。
 中国の知的財産権法分野の裁判例では、「指導案例[1]」及び「10大案件」が代表的なものであると言われている。今回は、中国最高人民法院(以下は、最高院とする。)が2022年4月21日に行った2021年度「10大知的財産案件及び50件典型的知的財産案件例」[2]の公布を機会に、中国における知的財産「指導案例」及び「10大案件」という制度及び今年度公開された裁判例を紹介する。
 
一、指導案例制度
 
 指導案例は、文字通りに、最高院が下級法院の審判活動を指導するために選定・公布した裁判例のことである。最高院が裁判例を公布することによって各級法院を指導するのは、1979年という早い時期から始まったことであった。1979年に頒布された人民法院組織法第18条[3]においては、明確に最高院に司法解釈権を付与した。それ以来、司法解釈の一環として、最高院は、典型的な裁判例を公布したりする形式を通して、地方各級法院の裁判活動を指導していた。1985年になると、司法文書、裁判例、司法解釈などを掲載する「最高人民法院公報」が創刊され、最高院の審判指導機能が強化されたものとみられる。続いて、2000年の「人民法院5か年改革綱要」及び2005年の「人民法院第2次5か年改革綱要」において、案例指導制度を創設する方向を明確にした。2010年11月26日、中国最高院の「案例指導に関する規定」[4](以下は、「指導規定」とする。)の公布によって、中国の「案例指導制度」が正式に確立された。「指導規定」は、主に指導案例の公布主体、公布形式、裁判例の選定基準および指導案例の効力などを明確にした。
 指導案例の選定基準は、「指導規定」第2条の規定より、裁判の法的拘束力が既に発生し、かつ、①社会に関心が寄せられるもの、②適用法律が抽象的なもの、③典型的なもの、④複雑な事件、⑤新しい類型の事件、⑤その他指導的意義を有するものであるとされている。
 指導案例の効力について、「指導規定」第7条は、「最高院が公開した指導案例は、各級人民法院が類似事件を審理する際に、参照すべきものである」と規定した。この規定から、指導案例は、類似事件の審理に一定な拘束力を有することがわかる。
 
二、10大知的財産案件
 
 10大知的財産案件の公開は、毎年の中国「知的財産宣伝週(以下では、知財週という。)」[5]を伴ったものである。
 知財週とは、一般的に、毎年の4月20日から、4月26日の世界知的財産の日まで、中国国家知識産権局や工商行政管理総局等の政府部門が連合主催しているイベントである。知財週では、過去一年間の知的財産保護状況のデータ公開を含め、関連する政策及び法律規定の宣伝、典型的な事例や裁判例の紹介、及び優れた貢献を有する人物の評価などが行われる。
 2013年度まで、知財週において、「全国知的財産保護の10件の重大案件」[6]という名称で、注目度、影響力、成果の大きさ、新しさなどの面を総合的に考慮し、全国から10件の知財関連の事件を取り上げ、紹介を行った。2014から、この案件の紹介コーナーは、「10大知的財産案件及び50件典型的知的財産案件例」に名称が変わり、最高人民法院の名義で、典型的な事例のデモンストレーション役割を十分に発揮するため、毎年に代表的な裁判例を10件、典型的裁判例を50件に選んで公開する形になった。
 2022年4月20日、最高院は「法办〔2022〕210号」通知において、「知的財産権裁判の新たな状況や問題点を交流するため」、2021年度の10大知的財産案件などを公布した。
 
三、まとめ
 
 以上から、指導案例及び10大案件の関係を以下の表で整理できる。
 

 

指導案例

知的財産10大案件

実施規定

案例指導に関する規定

法的根拠

中国人民法院組織法

公布主体

最高人民法院

最高人民法院

公布時期・数量

不定期、不定量

毎年公開、年ごとに10件

選定基準

法的効力を生じていた裁判例の中、①社会に関心が寄せられるもの、②適用法律が抽象的なもの、③典型的なもの、④複雑な事件、⑤新しい類型の事件、⑤その他指導的意義を有するもの

注目度、影響力、成果の大きさ、新しさを総合的に考慮

法的効力

下級裁判所の審判に対して一定な拘束力を有する

参考価値を有する

 
四、関連裁判例
 
 以下では、2021年に公開した知財関連の指導案例、及び2021年度の10大案件を簡単に紹介する。
 
1.指導案例
 2021年7月15日、最高院は第28編6件の指導案例(指導案例157号~162号)を公開した。第28編はすべて知的財産権に関する裁判例であり、著作権、特許権、商標権及び不正競争防止の関連事件が含まれている。以下において、この6件の指導判例を紹介する。
 
①指導案例157号 「唐韵クロークルーム」家具の応用美術著作権侵害事件
〔(2014)宁知民初字第126号民事判决、(2015) 苏知民终字第00085号民事判决、(2018)最高法民申6061号裁定〕
 本件は、家具の著作物性及びその著作権侵害の判断基準について判断された事件である。
 法院は、まず、応用美術品の著作権性に関して、「創作性、芸術性、実用性、再現性があり、芸術要素と実用要素を分離できる実用的な芸術作品については、応用美術作品として認められ、美術の著作物として著作権法上の保護を受けることができる。」と述べた。次に、本件において、法院は、原告商品が上述要件を有し、著作権法に保護できる応用美術作品であると判断した。
 被告商品の原告著作権侵害の該当性に関して、法院は、「実用性と美術性を併せ持つ応用美術作品について、著作権法はその美術性を保護するものであり、実用性を保護しないため、本件被告商品の原告著作権侵害の該当性に関して、美術性から比較して検討すべき」と述べ、両商品の実質上の類似性を認め、被告が原告著作権の侵害に該当すると判断した。
 
②指導案例158号 元従業員の職務発明紛争事件
〔(2016)粤 03 民初 2829 号民事判决、(2018)粤民终2262号民事判决、(2019)最高法民申6342号民事裁定〕
 本件は、元従業員が離職後に出願登録を行った発明の権利帰属について法院が判断を行った事件である。
 中国専利法(筆者注:日本の特許法に相当。)実施細則第12条1項3号が規定する「元の所属機関で担当していた本来の職務又は元の所属機関から与えられた任務と関係のある発明創造」[7]の判断に関して、法院は、「元勤務先、離職者及び離職者の新しい雇用先の間の利益バランスを考慮すべきものである。具体的には、以下の要素を考慮しなければならない。一、離職者が元勤務先で従事していた業務内容または配分された業務内容。二、当該特許の具体的な状況及び元勤務先での業務内容との関係。三、元勤務先が当該特許に関連する技術的な研究開発活動を行ったかどうか、あるいは当該特許に関連する技術が他の合法的な出所を持っているかどうか。四、当該特許(出願)の権利者または発明者が、研究開発の過程や特許技術の出所について合理的な説明を行えるかどうか」と述べた。
 本件において、法院は本件被告発明と元勤務先である原告の関連性を認め、その特許権が原告に帰属するものであると判断した。
 
③指導案例159号 「ネットワークオペレータのポータルサイトのアクセル方法」特許権侵害事件
〔(2018)鲁01民初1481号民事判决、(2019)最高法知民终147号民事判决〕
 本件は、他人の方法の発明を製品に固着して販売を行うことが方法の特許の権利侵害にあたると判断された事件である。
 法院は、被告行為について、「被告が営利目的で、その製品において方法特許の実質的内容を固着させ、その行為又はその結果が原告特許の技術範囲に完全にカバーされる上、原告特許がその中で代替不可能な役割を果たし、エンドユーザーが被告製品を使用すれば原告方法特許を自然に再現できる場合には、方法特許を実施し、特許権者の権利を侵害したものと認定される」と述べた。
 
④指導案例160号 「三红蜜柚」植物新品種育成者権侵害事件
〔(2018)粤73民初732号民事判决、(2019)最高法知民终14号民事判决〕
 本件は、植物新品種権の及ぶ範囲が争われた事件である。
 法院は、植物新品種権の範囲が登録された繁殖方法のみに及ぼす観点に反論し、植物新品種権の範囲は技術の進歩によって使えるようになった繁殖材料も含むと解釈しなければならないと述べた。
 それを本件に照らすと、被疑侵害品は「三紅蜜柚」の果実であり、その果実を繁殖材料にすることは高度な技術力を有する科学研究所にとっても非現実的である。そのため、法院は「三紅蜜柚」の果実が繁殖材料に該当せず、植物新品種権の保護範囲に属さないと判示した。
 
⑤指導案例161号 「加多宝」虚偽宣伝不正競争紛争事件
〔(2013)渝五中法民初字第00345号民事判决、(2014)渝高法民终字第00318号民事判决、(2017)最高法民再151号民事判决〕
 本件は、被告の広告が不正競争防止法上の虚偽宣伝の該当性が争われた事件である。
 法院は、広告が反不正競争法上の虚偽宣伝行為に該当するかどうかの判断について、「当該広告スローガンの内容が曖昧であるかどうか、関連公衆を誤解させる可能性があるかどうか、宣伝行為を行う側が虚偽宣伝の過失を有するかどうかなどの要素を考慮しなければならない。一方の当事者が当事者双方の商標使用許可契約、及びその商標の信用の向上に自ら寄与したことに基づき、消費者に基本的事実を知らせるために本件広告スローガンを公表したことは、客観的状況に合致し、関連公衆に誤解を与える可能性もなく、当該商標の人気及び信用を不当に流用する落ち度もなく、反不正競争法の虚偽宣伝行為に該当しない」と述べた。
 
⑥指導案例162号 「江小白」被代理人商標権紛争事件
〔(2017)京73行初1213号行政判决、(2018)京行终2122号行政判决、(2019)最高法行再224号行政判决〕
 本件は、中国商標法第15条[8]が規定する「代理人が自らの名義で被代理人の商標を無断に登録する」という拒絶理由の該当性が争われた事件である。
 法院は、被代理人の商標について、「当事者双方が販売契約及びカスタマイズ製品販売契約を結んだ時、双方が業務関係を有するが、係争商標のデザイン、関連商品のデザインなどはすべて代理人が提案したものである。そのため、カスタマイズ製品販売契約において被代理人が代理人の許諾を得ずに係争商標・商品の広告スローガンなどを使用することが明確に禁止され、かつ、被代理人による係争商標の先使用が認められない場合、係争商標は商標法15条に掲げる代理人商標に該当しない」と判示した。
 
2.10大案件
 前記の通り、最高人民法院は、毎年の知財週に前年度の知財裁判例から10大案件を選定して公開している。2021年度の10大案例は、今年の4月20日に公開されていた[9]。以下では、この10件の裁判例が選ばれた理由を簡単に紹介する。また、「(2020)…」から始まる判決書番号は、案件の特定をしやすいために、中国語のままに記載する。
 
①「双飛人」商標権侵害及び不正競争紛争事件
〔最高人民法院(2020)最高法民再23号民事判决〕
 この事件は、商標の先使用の抗弁が検討されたものである。先使用の抗弁という制度の目的は、善意のある先使用者が本来の使用範囲内において有力な商業商標の使用を継続させる利益を保護することである。同制度は、商標法の分野における信義誠実の原則の重要な現れである。
 最高院はその再審判決が、誠実な業務から生じる使用の権益を有効に保護したうえ、法院が知的財産権訴訟の誠実な制度の構築を強化するために有益な探索を行ったと評価した。
 
②「香兰素」技術秘密侵害事件
〔最高人民法院(2020)最高法知民终1667号民事判决书〕
 この事件は、中国法院歴史上、確定した賠償額が最も高い商業秘密侵害事件である(筆者注:賠償額は1.59億元で、約30.24億円)。本件判決は、侵害のコストを引き上げることによって、コア技術を効果的に保護したものであり、技術秘密侵害事件における損害賠償の判断に参考となる意義を有する。また、法院は、犯罪の疑いのある証拠を法律に基づいて公安機関(筆者注:中国における「公安」とは、日本の警察に相当する。)に移送することによって、民事上の侵害救済と刑事責任の収束を促進することができた。
 この点について、最高院は、本件判決が法律に基づいて知的財産権を厳格に保護することによって、侵害を厳しく取り締まるという法院の明確な立場を示したと評価した。
 
③自動車教習所による水平的取引制限事件
〔最高人民法院(2021)最高法知民终1722号民事判决书〕
 本件は、水平的取引制限の典型的な事件である。最高院はこの判決を通じて、水平的取引制限契約の適用除外基準を明確にし、独占禁止法に違反する水平的取引制限契約は無効とされるべきという一般原則が明確にされた。また、独禁法違反によって無効とされる契約条項の範囲は、水平的取引制限を形成させる条項のみに限らず、単独では存在する意義を欠く条項、及び水平的取引制限の行為遂行に奉仕する条項など、水平的取引制限を形成させる条項と密接な関係を有するような条項も含まれるとされた。
 この判決は、市場における公正な競争の秩序を強く保護することによって、不正な独占行為を根源的に阻止することに貢献したと最高院が評価した。
 
④「金粳818」植物新品種の育成者権侵害事件
〔最高人民法院(2021)最高法知民终816号民事判决书〕
 この事件は植物新品種の農家自用と詐称する無許諾経営事件である。法院は、本件における商品情報、経営許可などの記載がない「白い袋」で種苗をインターネットに介して販売する行為の規模が、「一般農家」の規模をはるかに超えたものであるため、被告・控訴人による「農家自用」の抗弁を退けた。そのうえ、法院は被告・控訴人が「一般農家」に偽装して育成者権を侵害するという行為の性質を正確に認定し、法律に基づき懲罰的賠償を適用した。
 本判決は、植物新品種の育成者権利を厳格に保護し、農業科学技術の革新を促進するという人民法院の司法志向を反映していると最高院が評価した。
 
⑤排水パン成型機特許権侵害及び司法懲戒[10]事件
〔江蘇省蘇州市中級人民法院(2019)苏05知初1122号民事判决书、(2020)苏05司惩1号决定书〕
 本件は、特許権侵害訴訟の中に、被告が訴訟の妨害を目的に、法院による保全措置が取られたにもかかわらず、重要な証拠を改ざん・隠滅した事件である。法院は、被告による証拠毀損行為が本件判決に直接な影響を及ぼしたと判断したうえ、被疑侵害行為が特許権侵害に該当すると認め、原告の賠償請求を全面的に支持した。同時に、被告行為に対して、法院はその重大性を考慮して罰金20万元(約380万円に相当)の司法懲戒金を科した。
 最高院は、本件判決が証拠を所持する当事者の義務及び証拠保全を妨害・阻害することの法的責任を明確にすることによって、権利者の立証負担を適切に軽減し、当事者が積極的、能動的、包括的かつ誠実に証拠を提供するよう導いたため、大きな実務的価値を有するものであると評価した。
 
⑥「恵氏」商標に関する懲罰的損害賠償事件
〔浙江省高級人民法院(2021)浙民终294号民事判决书〕
 本件は、被告が他人の商標「恵氏」を悪意で出願及び使用を行い、明示的または黙示的に実際の商標所有者との提携関係を有することを宣伝・広告した事件である。法院は、被告行為が原告商標権の侵害にあたると判断し、さらにその重大性を考慮して、懲罰的損害賠償規定の適用まで認めた。
 最高院は、本件は懲罰的損害賠償適用によって、権利侵害のコストを大幅に引き上げ、被害者に十分な救済を与えた典型的な判決であると評価した。
 
⑦「空竹」雑技(筆者注:中国ゴマの演芸。)作品の著作権帰属及び侵害事件
〔北京知識産権法院(2019)京73民终2823号民事判决书〕
 本件は、中国伝統ゴマ演芸ショーの著作物性及び権利侵害の判断基準が争われた事件である。法院は、「原告作品の振り付けがその創作者の個性を表して創作性を具備する表現であるため、著作権法第3条3号[11]に規定される演芸作品に該当する。被告らの演芸ショーが原告作品の独創性を有する表現とは実質上の類似な構成を有するため、(被告の上演など行為が)著作権の侵害にあたる」と判示した。
 最高院のコメントによると、この判決は、伝統文化に関連する作品の著作権保護を強化した典型的な事例である。最高院はさらに、法律に基づいて演芸作品を保護することは、文化的創造の活力を刺激し、文化産業の繁栄を促進することに資するものであると評価した。
 
⑧オープンソースソフトウェア(OSS)に関するコンピュータソフトウェア著作権侵害事件
〔広州知識産権法院(2019)粤73知民初207号民事判决书〕
 本件は、オープンソースコードに基づいて開発されたソフトウェアにおいて、被告は原告がGPLv3に基づいて開示したソースコードを元に四つのソフトウェアを開発・公表したところ、ソースコードを公開しなかった。また、被告は30分を超えた利用に対して、ユーザーに入会費を徴収していた。原告は、被告の上記行為が商用利用制限条項およびGPLv3に違反するものであり、自社著作権を侵害するものであると主張して訴訟を起こした。法院は、被告による入会費の徴収は、その運営・保守及び技術サポートのためであるため、GPLv3の違反ではないと判示した一方、ソースコードを提供しない行為がGPLv3の違反になると判示した。さらに、被告による原告ソースコードをコピー、再公表した行為が、原告著作権の侵害に該当すると法院が判示した。
 本件は、オープンソースソフトウェアの著作権保護に関わる新しいタイプの事件であり、法院がOSS関連訴訟中の当事者適格、商業的利用の制限条項などの問題を積極的に探索・検討したと最高院が評価した。
 
⑨架空注文不正競争紛争事件
〔山東省青島市中級人民法院(2020)鲁02民初2265号民事判决书〕
 本件は、いわゆる「やらせレビュー」を提供するサービスの不正競争防止法上の適法性が争われた事件である。被告が営利目的で、原告が運営するプラットフォームに出店しているネットショップに対して、架空注文によって偽レビューを不正に掲載するサービスを提供することが問題となった。法院はその行為が不正競争行為にあたると判示し、被告に対して損害賠償を命じた。
 最高院は、「本件は、ネットショップの架空注文という不正競争行為の認定に関する事件である。本判決は、需要に積極的に応え、架空注文行為を阻止することにより、市場競争の秩序を守り、事業者及び消費者の正当な権利・利益を保護し、公正な競争を尊重し保護し促進する市場環境の形成に寄与するものである」と評価された。
 
⑩「人人影視字幕組」著作権侵害事件
〔上海市第三中級人民法院(2021)沪03刑初101号刑事判决书、上海市杨浦区人民法院(2021)沪0110刑初826号刑事判决书〕
 本件は、映画作品の違法アップロードなどについて刑事責任を問われた事件である。被告らが無許諾で映画作品などを海外のウェブサイトからダウンロードし、翻訳・制作して関連サーバーにアップロードし、被告らが運営する「人人影視字幕組」ウェブサイトおよびアプリケーションでユーザーに無料視聴やダウンロードサービスを営利目的で提供した。法院は、被告らの行為が非常に悪質な著作権法侵害行為であり、中国刑法第217条「著作権侵害罪」[12]に該当すると判示した。
 「この事件では、関連著作物の数量が非常に多く、その権利者も分散していた。判決書は、『無許諾』の判断方法や無許諾の映画やテレビ作品の数などの法律の適用問題について詳しく説明した」と最高院が評価した。
 
参考文献:
・陳興良(金光旭 訳)「中国における案例指導制度」アジア太平洋研究37号(2012年11月)65~81頁
・趙静波(鄭路 訳)「中国における行政判例指導制度の発展と改革」ノモス29号(2011年12月)31~43頁
・曹可「比較法視点からみる中国の案例指導制度―案例指導制度と司法判例制度―(中国語原文:比较法视野下我国的案例指导制度——论案例指导制度和司法判例制度)」法制博覧(2019年5月)105~106頁
・夏黎黎「最高人民法院の案例指導制度の性質とその効力について(中国語原文:论最高人民法院案例指导制度的性质及其效力)」法制博覧(2018年3月)53~55頁
・蒋安杰「人民法院案例指導制度の構築—最高人民法院研究室主任胡云腾に取材(中国語原文:最高人民法院研究室主任胡云腾——人民法院案例指导制度的构建)」法制資訊(2011年1月)78~81頁
 
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[1] 「案例」は中国語の表現であり、法律用語として使われる場合に、日本語の「裁判例」、「判例」を意味する。本稿は、引用文献と一致するために、「案例」のままにする。
[2] 中国語原文は「最高人民法院发布2021年中国法院10大知识产权案件和50件典型知识产权案例」である。中国最高人民法院サイトに参照。(https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-355881.html、最終閲覧日:2022年5月2日)
[3] 第18条 最高人民法院は、裁判事務における法律の具体的な適用問題について、解釈を行うができる。
最高人民法院は、指導案例を発表ことができる。
[4] 法发[2010]51号規定、中国語原文は、「关于案例指导工作的规定」である。
[5] 中国語原文は、「知识产权宣传周」である。
[6] 中国語原文は、「全国知识产权保护10个重大案件」である。
[7] 本号の訳文はJETROウェブサイトに参照。全文は以下の通りである。
第十二条 専利法第六条に言う、所属機関の任務を遂行することによって完成した職務発明創造とは、
(3)定年退職、元の所属機関から転職した後又は労働や人事関係終止後の1年以内に行った、元の所属機関で担当していた本来の職務又は元の所属機関から与えられた任務と関係のある発明創造。(ほか各号は省略する。)(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20100201.pdf、最終閲覧日:2022年5月25日。)
[8] 第十五条 授権されていない代理人又は代表者が自らの名義により被代理人又は被代表者の商標を登録し、被代理人又は被代表者が異議を申し立てたときは、その登録をせず、かつその使用を禁止する。
同一又は類似の商品について登録出願された商標が、他人により先使用されている未登録商標と同一又は類似し、出願人は、当該他人と前項の規定以外の契約、業務関係又はその他の関係を持っていることにより、当該他人の商標の存在を明らかに知っていて、当該他人が異議を申し立てたときは、その登録をしない。
 訳文はJETROウェブサイトに参照。(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20100201.pdf、最終閲覧日:2022年5月25日。)
[9] 最高人民法院弁公庁が公開した「2021年中国法院10大知識産権案件及び50件典型知識産権案例に関する通知(法办〔2022〕210号)」に参照。
https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-297991.html(最終閲覧日:2022年5月6日)
[10] ここでいう「司法懲戒」は、民事訴訟を妨害することに対する処罰を意味する。本件判決で具体的に「重要な証拠を改ざん・隠滅し、人民法院の審理を妨害したこと」を指す。この行為に関して、中国民事訴訟法(2021年12月24日第四次修正、2022年1月1日実施)第114条第1項において、「人民法院は、状況の重大性に応じて、次のいずれかの行為を行った訴訟参加者またはその他の者を罰金または拘留することができ、その行為が犯罪に該当する場合は、法律に従って刑事責任を追及するものとする」になり、本件判決の原告行為「重要な証拠を改ざん・隠滅し、人民法院の審理を妨害したこと」を含めた1~6号に行為を列挙した。
[11] 第3条 本法にいう著作物とは、文学、美術及び科学分野において、創作性を有し、かつ、一定の形式で表現可能な知的成果をいい、次の各号に掲げる著作物が含まれる。
(3)音楽、演劇、演芸、舞踊、曲芸芸術による著作物
(ほか各号を省略する。)
[12] 第217条 営利を目的とし、次に掲げる著作権侵害行為の一つを実施し、違法所得金額が比較的大きいまたはその他の情状が重大である場合は、3年以下の有期懲役または拘役に処し、罰金を併科又は単科する。違法所得金額が巨額である場合またはその他の情状がきわめて重大である場合は、3年以上7年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。
(1)著作権者の許諾を得ずに、その文字作品、音楽、映画、テレビ、ビデオ作品、コンピュータソフトウェア及びその他の作品を複製発行した場合。
(2)他人が専有出版権を享有する図書を出版した場合。
(3)録音録画製作者の許諾を得ずに、その者が製作した録音録画の著作物を複製発行した場合。
(4)他人の署名を盗用した美術作品を制作し、販売した場合。
(訳文はJETROウェブサイトに参照。https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/19970314.pdf、最終閲覧日:2022年5月24日。)

 

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